水没したバスから20人救ったアルメニアのヒーロー、元水泳王者のシャヴァルシュ・カラペチャン

シャヴァルシュ・カラペチャン

シャヴァルシュ・カラペチャン氏は、アルメニア出身の元フィンスイミング(フィンを装着して行なう水泳競技)の選手。11回の世界記録を打ち立てた他、世界選手権を17回制した伝説のスイマーだ。近年では、ソチ冬季五輪で聖火ランナーを務めた際に、火が消えてしまったことで話題になった。

だがカラペチャン氏の最も有名な伝説は、ダムに転落したバスから素潜りで多くの人命を救ったことだ。

1976年トロリーバス事故

1976年9月16日の朝、カラペチャン氏はアルメニア首都エレバンにある貯水湖「エレバン・レイク」の周辺で日課のランニングを行っていた。ちょうど20kmを走り終えた頃、近くを走行していたトロリーバスが突然コントロールを失い、道を外れてダムに転落。バスには92人が乗車しており、そのほとんどが衝撃で気を失ってしまったという。その光景を目の当たりにしたカラペチャン氏は、迷うことなく凍えるような水温のダムに飛び込んだ。

バスは水深約10mの地点まで水没。カラペチャン氏はバスの窓を足で蹴破り、順番に乗客の救出にあたった。1人を水面まで引き上げては、またすぐに10メートルの潜水…。この作業を20分ほどで30回繰り返し、カラペチャン氏は20人の命を救った(20人以上を引き上げることに成功したが、残念ながらそのうちの何人かは地上で息を引き取ったらしい)。

シャヴァルシュ・カラペチャン バスvia ILTWMT

事故現場に居合わせた人の話によると、カラペチャン氏の足や背中には無数のガラスが刺さっていたという。後日、「今回の救出劇で最も恐ろしかったことは?」とメディアから尋ねられたカラペチャン氏は、次のように答えた:

「救える命に限界があるということがわかっていたので、ミスをしてしまうのが怖かった。ダムの底は真っ暗で、ほとんど何も見えない。1度間違えて、乗客ではなく座席を掴んでしまった。もう一つ命を救えたかもしれないというのに…。その座席は今でも悪夢になって僕を苦しめる」

カラペチャン氏は30回目の潜水が終わったところで気絶。彼の勇敢な行動の代償は大きく、汚染水が原因で血液感染症や肺炎を患い、しばらく意識不明の重体に陥ったという。46日後に意識を取り戻したが、プロとしてフィンスイミングを続けていくのは不可能となった。

これほど辛い目に遭いながらも、カラペチャン氏はヒーローの心をまったく失わなかったそうだ。トロリーバス事故から約9年後の1985年2月には、たまたまビルの火災に遭遇。逃げ遅れた人がいることを知ったカラペチャン氏は、迷うことなくビルに飛び込んでいき、救出活動に取り組んだという。この時も体にひどい火傷を負い、長期間入院することになったそうだ。

カラペチャン氏はまさにリアルスーパーマンである。

参考記事:「ILTWMT

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