- フィリピンで3日に施行された「サイバー犯罪防止法」
- ネットでの叩き行為やサイバーセックスが刑罰化
- 「いいね!」や「リツイート」も処罰対象か?
今月から日本で違法ダウンロードの「刑事罰化」が始まりましたが、それがかわいく見えるほどのネット規制法がフィリピンで施行されました。フィリピンのユーザーからは強い批判の声が上がっています。
「サイバー犯罪防止法」とは?
フィリピンで9月12日、「サイバー犯罪防止法(共和国法第10175号)」というインターネット規制法が、アキノ大統領の署名を経て成立した。ハッキングや児童ポルノ、サイバーセックスなどの取り締まりと罰則規定を盛り込んだ法律だ。
同法では、以下の項目などを「サイバー犯罪」と定義して、処罰の対象とする:
- ハッキング
- インターネットを使った詐欺行為
- インターネットでの名誉毀損
- 児童ポルノの掲載
- 転売を目的としたドメイン名取得(サイバースクワッティング)
- ファイル共有などの違法コンテンツ
- サイバーセックス(インターネットを通じた性行為)
一見、何も悪いところがないようにみえる。ハッキングやネット詐欺、児童ポルノ掲載などを徹底的に取り締まることに関しては、誰も異論はないはず。
しかし問題は、「SOPA」をはじめとする多くのネット規制法案がそうであるように、この法律にも“ネット上の言論の自由”を侵害するような項目があるというところだ。今、この新たなサイバー法律に対し、人権団体やユーザーたちから大きな反発の声が上がっている。
いったい何が問題?
反対派が懸念しているのは、次のポイント:
- 規定が曖昧 – 一体どこからが処罰の対象になるのか?明確でない
- 処罰が厳しすぎる – 最大で12年の懲役、または100万フィリピン・ペソの罰金
- 検閲強化、自由の侵害 – 政府が、警告なしでウェブサイトを遮断したり、ユーザーのデータを入手したりする可能性も
その中でも、特に「名誉棄損」に関する項目に批判が集まっている。「GMAネットワーク」が、サイバー犯罪防止法に関して危惧するべき点をまとめていたので紹介します:
ネット上で否定的な意見が言えなくなる
例えば、ブログやソーシャルネットワークを通して、ダメ政治家をこき下ろしたとする。サイバー犯罪防止法が施行されると、ネットでの叩きは、フィリピン改正刑法第355条の「名誉棄損」とみなされ、ハッキングやネット詐欺と同様に「犯罪行為」として扱われてしまう。
問題は、どこからが「名誉棄損」になるのかということ。警察や訴える側のさじ加減になりかねない。
故人の悪口もタブー
フィリピンの刑法では、「死んだ人の思い出を汚す行為」も名誉棄損に該当する。よってサイバー犯罪防止法下では、故人への悪口も「犯罪行為」とみなされる。一体どこまでが「故人を汚す行為」になるのか?ここが非常に曖昧。
例えば、故人が非難されて当然の性犯罪者だった場合は?大量虐殺を引き起こした独裁者だったら?また、そういった悪人たちの悪行をまとめているブログやサイトの運営者も処罰の対象となるのか?
要するに、故人に対して良いことが言えないのであれば、黙っていろということだろうか。
過去の投稿でもアウト
どれだけ昔に投稿したコンテンツであろうとも、現在でもアクセス可能であれば処罰の対象になるようだ。サイバー犯罪防止法が定義する、いわゆる“被害者”とその弁護人は、過去の投稿にさかのぼって、相手を訴えることができるとある。
つまり、法律が施行された時点で、批判記事やコメントを削除しておかないと、犯罪者にされる可能性があるということだ。ブロガーたちは、これまでに投稿したすべてのコンテンツを急いで再チェックしなくてはならないが、そんなことはナンセンスだし不可能に近い。
「いいね!」や「リツイ」も危ない
意図したかしないかは関係なく、名誉棄損とみなされるコンテンツを拡散したユーザーも、処罰の対象となる。つまり、ある記事をフェイスブックで「いいね!」したり、ツイッターで「リツイート」したりしただけでも逮捕される可能性があるということだ。
性的表現の規制
サイバー犯罪防止法では、「サイバーセックス」も処罰の対象になる。サイバーセックスとは、チャットやウェブカメラなどを使って行う、インターネットを通じたわいせつ行為のこと。未成年者や立場の弱い人にウェブカメラの前で性的行為を強要するような、「悪徳なサイバーセックスビジネス」を摘発する目的であれば大歓迎だ。
ここで問題視されているのは、処罰対象の線引きが曖昧すぎるというところ。成人した恋人同士が、合意の上でサイバーセックスを行ってもダメなのか?もし恋人とのビデオチャット中に、性行為を連想させるようなアイスクリームの食べ方をした場合、サイバーセックスとみなされてしまうのか?
一般常識で考えてそれはあり得ない。だが法律とコモンセンスとが常に共存するとは限らない。
皮肉や比喩もダメ
「InterAksyon.com」の記事によると、皮肉や暗示、比喩表現なども名誉棄損の対象になるらしい。「あいつは犯罪者。逮捕されるべき」といった直接的な言葉じゃなくても、それらしきニュアンスをネット上に書き込むだけで、加害者になってしまう恐れが十分にあるということだ。
大きすぎる政府
1987 年フィリピン共和国憲法第3 条1節「権利章典」には、「何人も法の適正手続きによることなしには生命、自由、財産を奪われず、また法の平等の保護を奪われない」と明記されている。
にもかかわらず、サイバー犯罪防止法のセクション19「コンピュータデータへのアクセスの制限と遮断」には次のようにある:
あるコンピュータデータが同法の規定に違反しているという証拠が発見された場合、司法省(DOJ)は該当するコンピュータデータへのアクセスを制限・遮断する命令を発するものとする
つまり、違反とみなされた場合は、裁判所手続きなど必要なく、当局は投稿の削除や個人データの収集を強制できる権利があるということだ。
処罰が厳しすぎる
もし、名誉棄損で摘発されてしまった場合、最大で12年の懲役、もしくは ₱100万フィリピン・ペソ(約188万円)の処罰が待っている。ちなみに、フィリピンの平均年収は約48万円(国家統計局国際労働機関調べ)。
ネット上で誰かを非難しただけで、年収の4倍にあたる罰金を支払って借金まみれになるか、それとも12年間塀の中で暮らして人生をぶち壊すか、究極の選択を迫られることになる。
サイバー犯罪防止法を巡って・・・
とにかく「曖昧さ」がサイバー犯罪防止法の最大の問題点だ。同法の規定は具体性に乏しく曖昧で、誰が処罰の対象になるのかが明確にされていない。反対派のTeofisto Guingona上院議員は、CBSニュースのインタビューで「『いいね!』をクリックすると訴えられる。マーク・ザッカーバーグでさえも処罰の対象になり得る」と述べた。
「最初に投稿を行ったユーザーが罪に問われるのか?それをシェアした人は?あるいはツイートした人は?その投稿に賛成と取れるコメントを残した場合はどうなるのか?」
この法律に関して確かなことと言えば、とにかく反対意見が多いということだ。9月26日には、ハッカー集団「アノニマス」が同法への抗議活動ととして、複数のフィリピン政府のサイトを攻撃し、改ざんした。
フィリピン市民も、同法を違憲だとする嘆願書を最高裁判所に提出するなどして、反対活動を行っている。人権擁護団体「ヒューマン・ライツ・ウォッチ」は、同法を「表現の自由を著しく侵害するものだ」として、警告を発した。
フィリピン政府は3日、同法に関して「表現や言論の自由は保証する」と国民に呼びかけたというが、今後どうなっていくのか・・・。
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